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東京地方裁判所 平成元年(ワ)12030号 判決 1992年11月18日

原告

株式会社アデランス

右代表者代表取締役

大北春男

右訴訟代理人弁護士

本間崇

吉澤敬夫

笠井収

右輔佐人弁理士

平山一幸

岡崎信太郎

被告

株式会社東京義髪整形

右代表者代表取締役

中山泰輔

右訴訟代理人弁護士

市川巌

右輔佐人弁理士

小山輝晃

主文

一  被告は別紙被告製品目録記載の部分かつらを製造販売してはならない。

二  被告は、原告に対し、金六四四万七〇〇〇円及びこれに対する平成三年一〇月一〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを五分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

五  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一主文第一項と同旨

二被告は、原告に対し、金一億円及びこれに対する平成三年一〇月一〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一本件は、原告が別紙特許権目録記載の特許権(本件特許権)を有しているものであるところ、被告が別紙被告製品目録記載の製品(被告製品)を製造販売した行為が本件特許権を侵害するものであると主張して、特許権に基づき、被告に対して、被告製品の製造及び販売の差止め並びに被告が被告製品の販売によって得た利益を原告の被った損害額であるとして、損害賠償の支払いを求めた事案である。

二争いのない事実

1  原告は本件特許権を有している。

2  本件発明の特許出願の願書に添付した明細書(本件明細書)の特許請求の範囲は、本判決添付の特許公報(本件公報)の該当項記載のとおりである。

3  本件発明の構成要件は、次のとおりである(以下、左の構成要件(一)を単に「要件(一)」ということとし、他の要件についても同様に表示する。)。

(一) 柔軟性に富む適宜肉厚の材料からなるかつら本体の外面に多数の毛髪を植設すると共に内面の任意位置に数個の止着部材を有してなる部分かつらにおいて、

(二) 前記止着部材が

(1) 反転性能を有する彎曲反転部材と、

(2) 該彎曲反転部材に櫛歯状に形成連接された多数の突片と

(3) 前記彎曲反転部材の反転運動に伴い前記多数の突片と係脱する摩擦部とからなり、

(三) 各突片が彎曲反転部材の反転に伴い倒伏したとき摩擦部との間に脱毛部周辺の毛髪を挟圧保持する構成とした、

(四) 部分かつら。

4  被告は、昭和六一年六月以降被告製品を業として製造販売している。

5  被告製品は、本件発明の要件(一)及び(四)を充足している。

6  昭和六一年六月から平成三年三月までに、被告製品(M3ピンつき部分かつら)の販売によって被告が受けた利益は、六四四万七〇〇〇円であり、また、M3ピン単独での販売によって被告の得た利益は、一九万二一九八円である。

7  被告製品(M3ピンつき部分かつら)の販売に関し、原告の被った損害が右物件の販売によって被告が得た利益全体ではなく、M3ピンの部分のみに限定されるとすれば、その損害額は五三万三七二七円である。

三争点

本件においては、①被告製品が、本件発明の技術的範囲に属するか(直接侵害)、②M3ピンが、本件特許権の対象物である部分かつらの生産にのみ使用する物であるか(間接侵害)、③被告製品が、本件発明の技術的範囲に属する場合、被告製品(M3ピンつき部分かつら)の販売に関し、原告の被った損害が右製品の販売によって被告が得た利益全体ではなく、M3ピンの部分のみに限定されるかの三点が争点である。以下各争点ごとに論じる。

1  被告製品は本件発明の技術的範囲に属するか。

被告は、被告製品が本件発明の要件(二)及び(三)を充足していないと主張しており、各要件に関する当事者双方の主張は次のとおりである(以下、被告製品に関する番号・記号は別紙被告製品目録記載のものを指す。)。

(一) 被告製品は、本件発明の要件(二)(1)「反転性能を有する彎曲反転部材」の要件を充足するか。

(1) 原告の主張

本件発明の彎曲反転部材は、要するに反転性能を有すればよく、その形状、該部材のどの部分が反転するかなどを問うものではなく、被告製品のストッパー3'は、全体がステンレス薄板で形成され、コ字状板部材40'と短冊状の他方の支脚52'を備え、コ字状板部材40'の両端の連結部53'、54'の先端部を互いに内方に押して鋲着されることにより、彎曲反転性能を付与されているから、コ字状板部材40'と他方の支脚52'からなる部材50'は、本件発明の「反転性能を有する彎曲反転部材5」に該当する。

(2) 被告の主張

<書証番号略>に示されるように、本件発明当時、かつら関係者の間では「反転性能を有する彎曲反転部材」とは、「その両支脚がともに一方に弓なりに曲がった状態から引っ繰り返って、他方に弓なりに曲がった状態になるもの」と認識されていたし、本件発明の詳細な説明及び図面においても、両支脚が共に同じように弓なりに曲がった状態の場合しか記載されていないから、本件発明の完成時、発明者は、「彎曲反転部材」についは全体的に彎曲反転するものしか認識していなかった。したがって、「彎曲反転部材」は、全体的に彎曲反転するものに限定されるものというべきである。被告製品においては、部材50'は、主として支脚51'が反転し、他方の支脚52'はほとんど反転せず、部材50'は部分的に反転するだけであるから、被告製品の部材50'は、本件発明の要件(二)の「前記止着部材」に関する(1)の要件である「反転性能を有する彎曲反転部材」には該当しない。

また、本件発明は、反転部材5の反転に伴って両脚片5a、5bが下方に彎曲したときの一方の脚片5aのねじれを積極的に利用し、このねじれにより多数の突片6が仰起状態から倒伏状態になって摩擦部7との間で毛髪を挟圧保持するのに対し、被告製品は、部材50'の一方の支脚51'が下方に彎曲したときの該一方の支脚51'の下動を積極的に利用し、この下動によりM形突片62'が軟質合成樹脂筒体7'より下方へ下動しようとして該軟質合成樹脂筒体7'との間で毛髪を挟圧保持するものであって、両者は技術的思想を全く異にするものである。

(二) 被告製品は、本件発明の要件(二)(2)の「該彎曲反転部材に櫛歯状に形成連設された多数の突片」を充足するか。

(1) 原告の主張

被告製品においては、その「三組のM形突片62'」は合計六個の突片を形成し、結局合計一二本の細い部材によって毛髪を挟むから、「櫛歯状」であることは明白であり、また「三組のM形突片62'」は「コ字状部材40'の長辺部に当たる一方の支脚51'の中間部から一体にほぼU字状に折り返して形成された短冊状の支持部57'」に取り付けられているから、「彎曲反転部材」に「形成連設」されていることに相当する。

(2) 被告の主張

「櫛歯」とは、多数の突状物が先端から根元まで一本、一本独立した状態で、言い換えればそれぞれが他の突状物と接触することなく一定の間隔を保ちながら連続している状態をいうところ、被告製品のM形突片62'はそれぞれが直線状の互いに独立した突片となっていないから、「櫛歯状に形成されている」とはいえない。また、被告製品においては、M形突片62'と軟質合成樹脂筒体7'とが面接触となり、しかもM形突片62'の中間に位置する根部側彎曲部が毛髪の先端部のためを形成するから、M形突片62'と軟質合成樹脂筒体7'との間で挟圧する毛髪量が大となり、脱毛部周辺の毛髪が少ない場合であっても確実に挟圧保持が確実になる、という本件発明では奏さない作用効果を有している。

更に、本件発明の出願時においては、「突片」を彎曲反転部材に直接設けることが当然であると考えられていたし、本件発明の実施例にも、多数の突片を彎曲反転部材に直接設けたものだけが開示されていて、被告製品のようなM形突片を部材50'から隔絶した帯状の支持部57'に設ける如き構成は発明の詳細な説明及び図面になんら記載されていないから、本件発明の発明者は、多数の突片を彎曲反転部材に直接設けることを意図していたと考えられる。また、「連」とは、例えば山が連なることを表す「連山」の如く「つらなる」の意味を有しているから、「連設」とは「つらなり設けること」の意味である。したがって、本件発明の要件(二)(2)の要件のうち「形成連設」は、多数の突片を彎曲反転部材に直接設けるもののみを指すと解するべきである。一方被告製品においては、M形突片を部材50'から隔絶した帯状の支持部57'に設けているから、右「形成連設」なる要件を満たさない。

(三) 被告製品は、本件発明の要件(二)(3)の「彎曲反転部材の反転運動に伴い前記多数の突片と係脱する摩擦部」の要件を充足するか。

(1) 原告の主張

被告製品の「前記他方の支脚52'に被嵌した軟質合成樹脂胴体7'」は本件発明の(二)の(3)の要件中の「摩擦部」に該当する。また、被告製品においては、部材50'の一方の支脚51'が上方に彎曲した正転状態では、M形突片62'は軟質合成樹脂胴体7'から離間しているが、この状態から一方の支脚51'の中心部を上面側から下面側に向けて押圧すると、一方の支脚51'は下方に彎曲反転し、M形突片62'は、他方の支脚52'に被嵌した軟質合成樹脂胴体7'の表面にそれぞれ圧着するのであるから、本件発明にいう「摩擦部」が「彎曲反転部材の反転運動に伴い前記多数の突片と係脱する」ことに該当する。

(2) 被告の主張

M形突片62'が櫛歯状の多数の突片に該当しない以上、被告製品の軟質合成樹脂胴体7'は本件発明の構成要件(二)(3)の要件中の「摩擦部」には該当しない。すなわち、被告製品の軟質合成樹脂胴体7'はM形突片62'と係脱するのであって、本件発明のように櫛歯状の多数の突片と係脱するものではない。

(四) 被告製品は、本件発明の構成要件(三)の「各突片が彎曲反転部材の反転に伴い倒伏したとき摩擦部との間に脱毛部周辺の毛髪を挟圧保持する構成」を充足するか。

(1) 原告の主張

被告製品では、一方の支脚51'の反転に伴って、下動するM形突片62'と軟質合成樹脂胴体7'との間で、脱毛部周辺の毛髪を挟圧保持するのであるから、本件発明の(三)の要件である「各突片が彎曲反転部材の反転に伴い倒伏したとき摩擦部との間に脱毛部周辺の毛髪を挟圧保持する構成としたことを特徴とする」ことに該当することが明らかである。

(2) 被告の主張

本件明細書の「前記彎曲反転部材5の反転運動に伴い、突片6の各先端は前記摩擦部7の上面から仰起して離れ(第3図)、あるいは倒伏して密接することになる(第4図)」(本件公報3欄12ないし15行)、「櫛歯状に形成連設された各突片6が彎曲反転部材5の反転運動に伴い、その先端部を起伏させて倒伏状態においてその先端部と摩擦部7との間に介入する脱毛部周辺の毛髪、つまり自毛を挟持するものである。」(同3欄33ないし37行)、「先ず、各止着部材3の彎曲反転部材5を第3図に示すように、反転させて各片6の各先端部が摩擦部7から仰起離脱させた上で頭部の所要位置に載置する。」(同4欄11ないし15行)などの記載からすると、「倒伏」とは、起き上がっていたものが倒れて横になること、即ち各突片6はその根部を中心としてその先端が少なくとも斜上方に向いていたのを回動して横向き或いは斜め下方へ向くこと、と解するのが相当である。

被告製品においては、ストッパー3'の一方の支脚51'の中心部を上面側から、下面側に向けて押圧すると、該一方の支脚51'は下方に彎曲反転してその中心部が下動し、その下動に伴ってM形突片62'は水平状態を保ちつつ下動して軟質合成樹脂胴体7'との間で脱毛部周辺の毛髪を挟圧保持するのであるから、被告製品のM形突片62'は「倒伏」しない。

2  M3ピンが、原告の有する本件特許権の対象物である部分かつらの生産にのみ使用する物であるか。

(一) 原告の主張

M3ピン単体は、原則として被告製の(例外として他社製の)部分かつらの止着部材として使用されるために販売されたものであことは疑いない。つまり、右単体で被告により販売されたM3ピンは、本件発明の対象品である「部分かつら」の生産にのみ使用する物であって、他に用途のないことは明らかである。

(二) 被告の主張

かつらとは別個にM3ピンのみで販売されたものが、販売先において被告製のかつらに使用されるのか、あるいは他社製のかつらに使用されるのかは、被告にとっては全くわからない。また、被告が販売したM3ピンは「部分かつら」の生産にのみ使用されるわけではなく、「全かつら」にも使用されるものである。

3  被告製品が、本件発明の技術的範囲に属する場合、被告製品(M3ピンつき部分かつら)の販売に関し、原告の被った損害が右製品の販売によって被告が得た利益全体ではなく、M3ピンの部分のみに限定されるか。

(一) 原告の主張

本件特許の特許請求の範囲の記載からみても、発明の名称から見ても本件特許発明は止着部材を有してなる「部分かつら」を対象としていることは明らかであり、特許権侵害に基づく損害金についても、止着部材につき部分かつら全体の利益によって算定されるべきである。

(二) 被告の主張

本件発明は部分かつらであるが、特許請求の範囲および発明の詳細な説明から、本件発明の要旨は止着部材に関してであり、この止着部材の特徴構成により、本件発明は特許されたものと認められる。したがって、損害金については、止着部材つき部分かつら全体の利益を当てるべきではなく、止着部材に相当する部分の利益のみをもって算定すべきである。

第三争点に対する判断

1  争点1(一)に対する判断

(1)  まず、「反転性能を有する彎曲反転部材」の意義について、検討する。

<書証番号略>(本件公報)によると、本件明細書の特許請求の範囲には、「反転性能を有する彎曲反転部材5」、「彎曲反転部材5の反転運動に伴い前記多数の突片6と係脱する摩擦部7」及び「各突片6が彎曲反転部材5の反転に伴い倒伏したとき摩擦部7との間に脱毛部周辺の毛髪を挟圧保持する」と記載されているから、この記載だけをみても、彎曲反転部材が突片6と摩擦部7の間で脱毛部周辺の毛髪を挟圧保持することができるような反転性能を有する彎曲した部材を意味するものと一応解することができる。そして、本件明細書の発明の詳細な説明の項をみると、同項には、「彎曲反転部材5は、金属材料あるいは硬質合成樹脂材等の剛性に富む材料からなる薄板で彎曲反転性能を有し、且彎曲反転させたときその状態を保持するように形成されている。すなわち、彎曲反転部材5の中央部をその下面から上面に向けて押圧すると、第3図に示すように、上方に反転し、また、この状態から彎曲反転部材5の中央部をその上面から下面に向けて押圧すると、第4図に示すように下方に反転するように形成されている。」(本件公報2欄25ないし34行)、「この突片6が前記彎曲反転部材5の一方の脚片5aに固着されて一体的に形成された場合には、前記彎曲反転部材5の反転運動に伴い、突片6の各先端は前記摩擦部7の上面から仰起して離れ、あるいは倒伏して密接することになる。」(3欄10ないし15行)、「摩擦部7は、……彎曲反転部材5の反転に伴い、突片6と係脱するようになっている。」(3欄15ないし20行)、「この摩擦部7と突片6との間には彎曲反転部材5の反転運動に伴い、脱毛部周辺の毛髪すなわち自毛が挟持されることになる。」(3欄25ないし28行)と記載されているから、彎曲反転部材が、これに形成された突片6と摩擦部7の間で脱毛部周辺の毛髪を挟圧保持することができるような反転性能を有する彎曲した部材を意味するものであることが明らかである。

被告は、<書証番号略>並びに本件明細書の発明の詳細な説明及び本件明細書に添付された図面には、両支脚がともに同じように弓なりに曲がった状態の場合しか記載されておらず、本件発明の発明物は発明の完成時「反転性能を有する彎曲反転部材」として全体的に彎曲反転するものしか認識していなかったから、「彎曲反転部材」は全体的に彎曲反転するもののみに限られる旨主張する。しかしながら、右<書証番号略>が全体的に彎曲反転するような反転部材のみを記載したものであるとしても、これらの存在のみをもって直ちに、発明者が発明の完成時「反転性能を有する彎曲反転部材」として全体的に彎曲反転するものしか認識していなかったということはできないし、また、本件明細書の発明の詳細な説明及び本件明細書に添付された図面の記載内容については前記のとおりであって、彎曲反転部材として全体的に彎曲反転するものしか認識していなかったということはできないから、被告の主張は理由がなく、「彎曲反転部材」が全体的に彎曲反転するもののみに限られると解することはできない。

(2)  別紙被告製品目録によると、被告製品においては、コ字状板部材、40'及び他方の支脚52'は、コ字状板部材40'の両端の連結部53'54'の先端部が互いに少し内方に押され、これらの連結部53'54'の先端部を他方の支脚52'の両端に鳩目55'56'により鋲着されているから、僅かに彎曲しているというのであり、また、コ字状板部材40'の長辺部に当たる一方の支脚51'が上方に彎曲した正転状態から一方の支脚51'の中心部を上面側から下面側へ向けて押圧すると、一方の支脚51'は下方に彎曲反転し、別紙被告製品目録第7図に示すようにこの反転に伴って該一方の支脚51'の内側が基準線Xから見て下方に向かって傾斜し、この一方の支脚51'に一定角度でほぼU字状に折り返して形成された支持部57'を介して連結されているM形突片62'は、前方からみて水平状態を保ちつつ下動するというのであり、またこのように下動するM形突片62'と他方の支脚52'に被嵌した軟質合成樹脂筒体7'との間で脱毛部周辺の毛髪を挟圧保持するというのであるから、「コ字状板部材40'と短冊状の他方の支脚52'」からなり、「コ字状板部材40'の両端の連結部53'54'の先端部を互いに少し内方に押してこれら連結部53'54'の先端部を他方の支脚52'の両端に鳩目55'56'により鋲着」されたものは、本件発明の要件(二)(1)の「反転性能を有する彎曲反転部材」に該当するものというべきである。

被告は、本件発明においては、両脚片5a、5bが下方に彎曲したときの一方の脚片5aのねじれにより多数の突片6が仰起状態から倒伏状態になって摩擦部7との間で毛髪を挟圧保持するのに対し、被告製品においては、一方の支脚51'が下方に彎曲したときの該一方の支脚51'の下動によりM形突片62'が軟質合成樹脂筒体7'より下方へ下動しようとして該軟質合成樹脂筒体7'との間で毛髪を挟圧保持するものであって、両者は技術的思想を全く異にするものである旨主張するが、本件明細書の発明の詳細な説明には、実施例として「薄板を予めU字状に形成しておき、その両自由端を互いに内方に牽引して両自由端に形成された内向突片を互いに重合固定することにより、彎曲状態に形成して反転し得るようにした」と記載されているところ(本件公報2欄35行ないし3欄2行)、別紙被告製品目録によると、被告製品においても「ストッパー3'は全体がステンレス薄板で形成されていて、……コ字状板部材40'の両端の連結部53'54'の先端部を互いに少し内方に押してこれら連結部53'54'の先端部を他方の支脚52'の両端に鳩目55'56'により鋲着されている。」という構成が採られているものであり、これはコ字状の薄板の自由端を内方に牽引して歪めることにより立体的な彎曲面を形成して反転性能を付与するものであって、本件発明の前記実施例の構成と異ならないものというべきであるから、技術的思想を全く異にするものである旨の被告の主張は理由がない。

2  争点1(二)に対する判断

(1)  まず、本件発明における「彎曲反転部材に櫛歯状に形成連設された多数の突片」の要件について検討する。右要件のうち、「櫛歯状に形成連設された」は、構文上、「彎曲反転部材」と「多数の突片」とを関連づける語句として用いられているが、「連設」の語があることによって、特許請求の範囲の記載だけでは、一義的に明確に理解することができないので、発明の詳細な説明を参照すると、「櫛歯状に形成」はどの記載箇所においても反転部材と多数の突片とを結び付ける用語としては用いられておらず、「櫛歯状に形成された多数の突片」(本件公報3欄30、31、33行)のように、専ら「多数の突片」を形容する語句として用いられていることが明らかである。次に、「連設」の語についてみてみると、発明の詳細な説明においては「該彎曲反転部材5に連設され櫛歯状に形成された多数の突片6」(3欄30、31行)と記載され、「連設」は彎曲反転部材と多数の突片を関連づける語句として用いられていることが明らかである。したがって、右要件は、「彎曲反転部材に連設され、かつ櫛歯状に形成された多数の突片」と解するのが相当である。そこで、この要件を更に「櫛歯状に形成された多数の突片」と「彎曲反転部材に連設され」の二つに分けて検討することとする。

(2)  「櫛歯状に形成された多数の突片」とは、字句どおり「櫛の歯のように横に並んで配列された多数の突片」であると解することができる。

別紙被告製品目録によると、被告製品においては、短冊状の支持部57'に三組のM形突片62'が取り付けられているが、この三組のM形突片62'は、別紙被告製品目録第2、第5図から明らかなように、細長く形成されたU字状の先端部分が六本横に並んだ形状であるところ、U字状先端部分はかなりの長さを有しているから、独立した「突片」であるということができるし、また、このかなりの長さを有する六本のU字状先端部分が均一の間隔で横に並んで配列されているから、これをもって「櫛歯状に形成された」ということができ、またU字状先端部分が右のとおり六本あるから、「多数」設けられているということもできる。したがって、被告製品の三組のM形突片62'は「櫛歯状に形成された多数の突片」に該当する。

被告は、被告製品のM形突片62'はM字状に形成され、本件発明のごとくそれぞれが直線状の互いに独立した突片となっていないから、これをもって「櫛歯状に形成されている」とはいえないと主張するが、右要件は、「櫛歯状」であって、「櫛歯」ではないから、厳密に櫛歯と同一でなくともよいことはいうまでもなく、被告製品のM形突片62'が「櫛歯状に形成された多数の突片」に該当することは前記のとおりであって、被告の右主張は理由がない。

また、被告は、被告製品においては、M形突片62'と軟質合成樹脂筒体7'とが面接触となり、しかもM形突片62'の中間に位置する根部側彎曲部が毛髪の先端部のためを形成するから、M形突片62'と軟質合成樹脂筒体7'との間で挟圧する毛髪量が大となり、脱毛部周辺の毛髪が少ない場合であっても、毛髪の挟圧保持が確実になる、という本件発明では奏さない作用効果を有する旨主張するが、被告製品が右主張のような作用効果を奏することについては本件証拠上必ずしも明らかではない。また、被告製品が仮に右主張のような作用効果を奏するとしても、本件発明における「櫛歯状に形成された多数の突片」が脱毛周辺の毛髪を梳き、この毛髪に入り込んだうえ、摩擦部との間にこの毛髪を挟圧保持する作用効果を有するものであることは、その目的・構成に照らし明らかであり、この限度においては、被告製品における三組のM形突片62'も同様の作用効果を有するものであるから、被告製品における三組のM形突片62'は本件発明における「櫛歯状に形成された多数の突片」を改良したものにすぎないというべきであって、作用効果の点から三組のM形突片62'が「櫛歯状に形成された多数の突辺」に該当しない趣旨に帰すると思われる右被告の主張は理由がない。

(3)  次に、「彎曲反転部材に連設され」の点についてみてみると、本件明細書の発明の詳細な説明においては、「……櫛歯状に形成し、各先端を自由端として後端部を前記彎曲反転部材5の一方の脚片5aに溶接等の接着方法により固着されている。なおこの突片6は第5図に示すように、彎曲反転部材5と多数の突片6とを一体に形成したものであってもよい。」(本件公報3欄5ないし10行)、「この突片6が前記彎曲反転部材5の一方の脚片5aに固着されて一体的に形成された場合には、前記彎曲反転部材5の反転運動に伴い、突片6の各先端は前記摩擦部7の上面から仰起して離れ(第3図)、あるいは倒伏して密接することになる(第4図)」(3欄10ないし15行)と記載されていることから考えると、「連設」とは「固着されて一体的に形成する」ことであると解することができ、また、「固着されて一体的に形成する」目的は、多数の突片を反転部材の反転運動に連動させて摩擦部と係脱させることにあると解することができる。すなわち、「多数の突片」が「彎曲反転部材」に「連設」即ち「固着されて一体的に形成」されていさえすれば、多数の突片が彎曲反転部材の反転運動に連動して摩擦部と係脱することになるから、「連設」概念には、多数の突片が彎曲反転部材に「直接」固着されるかどうかは含まれていないものといえる。

別紙被告製品目録によると、被告製品においは、M形突片62'は、コ字状板部材40'の長辺部にあたる一方の支脚51'の中間部からほぼU字状に折り返して形成された短冊状の支持部57'に取りつけられているから、同支持部を介して部材50'に「固着されて一体的に形成」されているものということができ、「彎曲反転部材に連結され」の要件を充足することが明らかである。

被告は、本件明細書の発明の詳細な説明には、実施例として多数の突片を彎曲反転部材に直接設けたものだけが記載されていること等を根拠として、本件発明の出願時においては、多数の突片を彎曲反転部材に直接設けることもののみが意図されていた旨を主張するが、本件発明の実施例に多数の突片を彎曲反転部材に直接設けたものだけが記載されているからといって、被告主張のように解さなければならない理由はないというべきであるし、他に被告主張を裏付けるに足りる証拠もない。また、被告は「連設」の意味が「つらなり設けること」であることから、「連設」が直接設けるもののみを指すと主張するが、「連設」の意味が右のとおり「つらなり設けること」であるとしても、かかる語句の意味から直ちに「連設」が直接設けるもののみを指すと解することはできない。

(4)  右のとおり、被告製品は、本件発明の要件(一)(3)を充足する。

3  争点1(三)に対する判断

被告製品の支脚52'に被嵌された軟質合成樹脂胴体7'が摩擦を生じさせやすい材料からなっていることは被告も明らかに争わないところであるから、被告製品の軟質合成樹脂胴体7'は本件発明の要件(二)(3)の「摩擦部」に該当するものといえる。また前記のとおり被告製品のM形突片62'は櫛歯状の多数の突片に該当する。そして、別紙被告製品目録の記載によれば、被告製品の部材50'の一方の支脚51'が上方に彎曲した正転状態では、M形突片62'は軟質合成樹脂胴体7'から離間しているが、一方の支脚51'の中心部を上面側から下面側に向けて押圧すると、一方の支脚51'は下方に彎曲反転し、当該一方の支脚51'に一定角度でほぼU状に折り返して形成された支持部57'を介して連結されているM形突片62'は、他方の支脚52'に被嵌した軟質合成樹脂胴体7'の表面に圧着するのであるから、本件発明の彎曲反転部材に相当する被告製品の部材50'(コ字状板部材40'と短冊状の他方の支脚52'から成るもの)の反転運動に伴って、本件発明の櫛歯状の多数の突片に相当する被告製品のM形突片62'が本件発明の摩擦部に相当する被告製品の軟質合成樹脂胴体7'と係脱するといえるから、被告製品は、本件発明の要件(二)(3)を充足する。

4  争点1(四)に対する判断

本件明細書の発明の詳細な説明の項には「前記彎曲反転部材5の反転運動に伴い、突片6の各先端は前記摩擦部7の上面から仰起して離れ(第3図)、あるいは倒状して密接することになる(第4図)」旨の記載があり(本件公報3欄12ないし15行)、このような記載から考えれば「倒伏」とは、起き上がっていたものが倒れて横になること、即ち「各突片6がその根部を中心としてその先端が少なくとも斜め上方に向いていたのが、斜め下方に向くこと」と解することができる。そして、別紙被告製品目録によれば、被告製品においては、M形突片62'は先端は正転状態において、第6図のとおり、基準線Xに対してやや上向きであり、反転状態においては第7図のとおり基準線Xに対しやや下向きになっていることが認められるから、右記「倒伏」の定義を満たすものということができる。

そして、右目録の記載によれば、被告製品のM形突片62'は、反転状態のとき軟質合成樹脂胴体7'との間で、脱毛部周辺の毛髪を挟圧保持する構造を有するのであるから、被告製品が、本件発明の要件(三)を満たすことは明らかである。

5  争点2に対する判断

原告は、被告によって単体で販売されたM3ピンが、本件発明の対象品である「部分かつら」の生産にのみ使用する物であって、他に用途のないことは明らかであると主張し、これに対し、被告は、被告が販売したM3ピンは「部分かつら」の生産にのみ使用されるわけでなく、「全かつら」にも使用されるものである旨主張する。

そこで、検討するに、特許権侵害を理由としてその侵害行為の差止め等を請求する場合において特許権者が特許法一〇一条一号の適用を求めるとき、適用を求める特許権者側において「その物の生産にのみ使用する物」であること、すなわち他用途の不存在を主張立証する必要があることはいうまでもないところ、その主張立証の必要性は相手方において他用途の存在について一応の合理性のある主張がなされたとき顕在化するというべきであるので、本件において、他用途の存在を主張する被告主張に一応の合理性があるかについて考えることとする。

まず「部分かつら」と「全かつら」の意義について検討すると、本件明細書の特許請求の範囲には、部分かつらの意義を解する手掛かりとなるものとして「脱毛部周辺の毛髪を挟圧保持する」との記載があるものの、これだけでは明確でない。そこで、本件明細書の発明の詳細な説明の項をみると、同項には「本発明は、頭髪の部分的な脱毛状態を陰蔽する際に使用する部分かつらに関するものである。」(本件公報1欄27、28行)、「頭髪が部分的に脱毛しているときにこれを部分かつらによって陰蔽することはしばしば行われるところである」(1欄29ないし31行)、「部分かつらを頭部の所望位置に止着する手段としては……」(1欄34、35行)、「上記かつら本体2の外面には、毛髪4が植設されており、脱毛部分を陰蔽した際に、その使用状況が外見から容易に判別し得ないようになっている。」(2欄14ないし17行)等と記載されており、これらを総合すると、「部分かつら」とは、頭部に残存する自毛を外部から見えるようにこれを生かしながら、その脱毛部分のみを陰蔽するようなかつらをいうものと解される。これに対し、被告の主張する「全かつら」の意義は必ずしも明確ではないが、「部分かつら」に相対するものとして使用しているところからすると、頭部全体を覆うようなかつらを指しているものと解される。そして、脱毛部分が頭部の一部であり、頭部に自毛が残存するとき、本件発明のように、自毛を外部から見えるように生かしながら部分かつらを使用する場合と、自毛の存在にもかかわらず、頭部全体を覆うような全かつらを使用する場合とが考えられるところ、右のような部分かつらにおいては、前記のように「その使用状況が外見から容易に判別し得ないように」するためには、かつら本体に植設された毛髪と自毛との差異をなくし、又は少なくする必要があり、このことにかなりに困難を伴うことは容易に想到しうるところであるから、このような困難を回避するため、全かつらを使用することも全く理由がないとはいえない。

そうすると、被告のM3ピン「全かつら」にも使用されるものであるとの主張も一応の合理性があるというべきであるから、間接侵害を主張する原告としては、このような他用途の不存在を主張立証する責任があるというべきである。しかるところ、原告の右主張を裏付けるに足りる証拠はないから、M3ピンが部分かつらの生産にのみ使用する物であると認めることはできない。

6  争点3に対する判断

本件発明は、止着部分を有してなる「部分かつら」に対するものであって、単なる止着部材に対するものではないから、本件特許権侵害に基づく損害は、被告製品目録に記載されたストッパー付き部分かつら全体の利益によって算定されるべきである。

被告が製造販売を開始した昭和六一年六月から平成三年三月までに、被告製品(M3ピンつき部分かつら)の販売によって被告が受けた利益が六四四万七〇〇〇円であることは当事者間に争いがなく、その余についてはこれを認めるに足りる証拠はない。したがって、被告は、右六四四万七〇〇〇円とこれに対する右侵害行為の後である平成三年一〇月一〇日から年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

被告は、本件発明は止着部材の特徴構成により特許されたものであるから、止着部分に相当する部分の利益のみをもって損害を算定すべきである旨主張するが、およそ特許発明において、その技術的思想がすべて新規性・進歩性を有するものであることは有り得ないところであり、従来技術をその中に含むものであることは必須であるから、被告主張のように解するならば、一つの特許権を侵害した場合において、その損害を算定するに当たっては常に、新規性・進歩性を有する部分とそうでない部分との割合を算定すべきこととなるのであって、このようなことを特許法が予定していないことは同法一〇二条の規定に照らし明らかであり、到底採用することはできない。

7  まとめ

以上によれば、被告製品は、本件発明の技術的範囲に属し、被告製品を製造販売する行為は、本件特許権を侵害することになるというべきであるから、原告の差止請求及び損害賠償請求(一部)は理由がある。

(裁判長裁判官一宮和夫 裁判官足立謙三 裁判官前川高範)

別紙特許権目録

(一) 特許番号 第九八六一五〇号

(二) 発明の名称 部分かつら

(三) 出願日 昭和五一年九月三〇日

(四) 公告日 昭和五四年六月二五日

(五) 登録日 昭和五五年二月七日

別紙特許公報

部分かつら

特願 昭五一―一一七五三一

出願 昭五一(一九七六)九月三〇日

公開 昭五三―四二九七〇

昭五三(一九七八)四月一八日

発明者 根本信男

調布市入間町一の三五の二八

出願人 株式会社アデランス

東京都新宿区新宿三の一七の五カワセビル四階

復代理人 弁理士 小田治親

特許請求の範囲

1 柔軟性に富む適宜肉厚の材料からなるかつら本体2の外面に多数の毛髪4を植設すると共に内面の任意位値に数個の止着部材3を有してなる部分かつらにおいて、前記止着部材3が反転性能を有する弯曲反転部材5と、該弯曲反転部材5に櫛歯状に形成連設された多数の突片6と、前記弯曲反転部材5の反転運動に伴い前記多数の突片6と係脱する摩擦部7とからなり、各突片6が弯曲反転部材5の反転に伴い倒伏したとき摩擦部7との間に脱毛部周辺の毛髪を挟圧保持する構成としたことを特徴とする部分かつら。

発明の詳細な説明

本発明は、頭髪の部分的な脱毛状態を陰蔽する際に使用する部分かつらに関するものである。

頭髪が部分的に脱毛しているときにこれを部分かつらによって陰蔽することはしばしば行われるところであるが、この場合に、平静時は勿論、激しい運動を行う場合にも、部分かつらによる隠蔽状態が確実に維持されていなければならない。ところで部分かつらを頭部の所望位置に止着する手段としては、従来脱毛部分に直接部分かつらを止着する場合と、脱毛部分周辺の頭髪に部分かつらを止着する場合とがある。本発明は、特に後者すなわち脱毛部分周辺の頭髪つまり自毛に部分かつらを止着する場合のものに係るものであって、従来提供されているものと異った構成からなり、取付け、取外し操作が容易で特に止着時に激しい動作をしても離脱することのないようにしたものである。

以下、本発明の実施例を図面について詳述する。

第1図乃至第4図は、本発明の第一の実施例に係る部分かつらを示し、部分かつら1は、適宜肉厚の軟質合成樹脂材あるいは布材等の柔軟性に富む材料で形成された部分かつら本体2と、該かつら本体2の内面の任意位置に附設された数個の止着部材3とからなっている。

上記かつら本体2の外面には、毛髪4が植設されており、脱毛部分を陰蔽した際に、その使用状況が外見から容易に判別し得ないようになっている。

上記止着部材3は、第2図に示すように、かつら本体2の周辺部に取り付けられた弯曲反転部材5と、該弯曲反転部材5の一方の脚片5aに櫛歯状に形成連設された多数の突片6と、上記弯曲反転部材5の反転により多数の突片6と係脱する他方の脚片5bよりなる摩擦部7とで構成されている。

そして前記の弯曲反転部材5は、金属材料あるいは硬質合成樹脂等の剛性に富む材料からなる薄板で弯曲反転性能を有し、且弯曲反転させたときその状態を保持するように形成されている。すなわち、弯曲反転部材5の中央部をその下面から上面に向けて押圧すると、第3図に示すように、上方に反転し、また、この状態から弯曲反転部材5の中央部をこの上面から下面に向けて押圧すると、第4図に示すように下方に反転するように形成されている。この弯曲反転部材5を保持させている反転性能は、本実施例においては、前記薄板を予めU字状に形成しておき、その両自由端を互に内方に索引して両自由端に形成された内向突片を互に重合固定することにより、弯曲状態に形成して反転し得るようにした賦与されたものである。また前記突片6は、第2図に示すように、前記反転部材5と同様に金属等の剛性に富む材料例えば鋼線材を屈曲、捻曲加工して櫛歯状に形成し、各先端を自由端として後端部を前記弯曲反転部材5の一方の脚片5aに溶接等の接着方法により固着されている。尚この突片6は、第5図に示すように、弯曲反転部材5と多数の突片6とを一体に形成したものであってもよい。この突片6が前記弯曲反転部材5の一方の脚片5aに固着されて一体的に形成された場合には、前記弯曲反転部材5の反転運動に伴い、突片6の各先端は前記摩擦部7の上面から仰起して離れ(第3図)、あるいは倒伏して密接することになる。(第4図)。又、前記摩擦部7は、第2図に示すように摩擦を生じさせ易いゴム材料からなり、前記突片6の下方にその突出方向と直交する方向に帯状に形成され弯曲反転部材5の反転に伴い、突片6と係脱するようになっている。本実施例にあっては、弯曲反転部材5の他方の脚片5bの上面にゴム板を貼着して形成したものであるが、それに代え、かつら本体2の相応面上に直接ゴム板等を貼着して形成してもよく、また、かつら本体2の相応面を粗面とし直接摩擦部7を形成することとしてもよい。この摩擦部7と突片6との間には弯曲反転部材5の反転運動に伴い、脱毛部周辺の毛髪すなわち自毛が挾持されることになる。

上記止着部材3は、以上のように、弯曲反転部材5と、該弯曲反転部材5に連設され櫛歯状に形成された多数の突片6と、該突片6と係脱する摩擦部7とからなることを特徴とするものであり、櫛歯状に形成された各突片6が弯曲反転部材5の反転運動に伴い、その先端部を起伏させて倒伏状態において、その先端部と摩擦部7との間に介入する脱毛部周辺の毛髪は、つまり、自毛を挾持するものである。さらに、止着部材3は、本発明の実施例においては、突片6の先端部がかつら本体2の中央部に向けられるように、かつら本体2の周辺部に附設されているが、これに代え、突片6の先端部がかつら本体2の周縁部に沿うように向きを代えて附設されるものであってもよい。ただ、前記実施例のように、かつら本体2の中央部に突片6の先端部が向くように止着部材3を附設する場合には、部分かつら1の装着が容易に行われるばかりでなく取外しも引き剥すことによっても容易に行い得る。これに較べて他の実施例のように、かつら本体2の周縁部に突片6の先端部が沿うように止着部材3を附設する場合には、部分かつら1の装着は容易に行われるが、一旦装着した後は、その取外し、特に引き剥しによることが容易に行われない欠点がある。従って、前記実施例のように突片6の先端部がかつら本体2の中央部に向くように止着部材3を附設することが望ましい。

本発明に係る部分かつら1を使用するには、先ず、各止着部材3の弯曲反転部材5を第3図に示すように、反転させて突片6の各先端部が摩擦部7から仰起離脱させたうえで頭部の所要位置に載置する。しかるときは各止着部材3の突片6と摩擦部7との間に自毛が各突片6間を通じて介入するから、部分かつら1の位置をよく定めたうえで外部から、つまり毛髪4上からかつら本体2を介して各止着部材3に順次押圧力を加えれば、すなわち、止着部材3の弯曲反転部材5に、第4図に示すように、反転運動を起こさせれば、突片6が摩擦部7との間に介入している自毛を挟圧保持することとなり、部分かつら1が頭部の所望位置に定着固定される。また、部分かつら1を取り外すときは、各止着部片3の弯曲反転部材を手指により操作して反転させて引張れば簡単に引き剥すことができる。

上記したように本発明によれば、止着部材を反転するだけの簡単な操作で部分かつらを装着することができ、しかも、脱毛部周辺の毛髪つまり自毛に保持させるので激しい運動を行ったり、頭部に汗をかいたりしても容易に脱落することがない。また、簡単な操作で、部分かつらを頭部から取り外すことができるので、頭部を洗ったり、あるいは部分かつらを洗ったりすることを容易に行い得る。

図面の簡単な説明

第1図は本発明の実施例に係る部分かつらの内面を示す平面図、第2図は止着部材を拡大して示す平面図、第3図および第4図は止着部材の作動状態を示す側面図、第5図は他の実施例に係る止着部材を示す平面図である。

1……部分かつら、2……かつら本体、3……止着部材、4……毛髪、5……弯曲反転部材、6……突片、7……摩擦部材

別紙被告製品目録

左記図面及び説明に示す部分かつら。

一.図面の簡単な説明

第一図(A)から(D)は、被告製品のかつらの一般的ないくつかの例の内面を示す平面図である。

第二図は、これらのかつらに付設したストッパー(M3ピン)の拡大した平面図、

第三図及び第四図は、このストッパーの正転状態および反転状態をそれぞれ示す正面図

第五図は、このストッパーをかつらの内面に取りつけた状態の一部拡大斜視図である。

第六図及び第七図は第三図及び第四図のそれぞれ側面図である。

二.説明

被告製品のかつら本体2は、合成樹脂により形成されているもの(第一図(D))、網(ネット)だけで形成されているもの、網の内側または外側に合成樹脂もしくは布などが付着されたもの(第一図(C))、網と合成樹脂との組合わせにより形成されているもの(第一図(A)(B))等がある。そして本体2'の内面には数個のストッパー3'のみが付設されている場合(第一図(D))あるいはストッパー3'と接着剤をつける箇所8とが付設されている場合(第一図(A)(B)(C))とがある。

次にストッパー3'は全体がステンレス薄板で形成されていて、コ字条板部材40'と短冊状の他方の支脚52'と、コ字状板部材40'の長辺部にあたる一方の支脚51'の中間部から一体にほぼU字状に折り返して形成された短冊状の支持部57'と、支持部57'に取りつけられている三組のM形突片62'と、前記他方の支脚52'に被嵌した軟質合成樹脂筒体7'とにより構成され、コ字状板部材40'の両端の連結部53'、54'の先端部を互いに少し内方に押してこれらの連結部53'、54'の先端部を互いに少し内方に押してこれらの連結部53'、54'の先端部を他方の支脚52'の両端に鳩目55'56'により鋲着されている。

従って、コ字状板部材40'と他方の支脚52'は僅かに湾曲するに過ぎない。また三組のM形突片62'は、その先端部より少し根部側の位置で他方の支脚52'の上方に位置しかつ先端部が下方に少し湾曲している。

次に、ストッパー3'の作動を説明すると、

第三図に示す部材50'の一方の支脚51'が上方に湾曲した正転状態では第六図に示すようにこの一方の支脚51'に一定角度にほぼU状に折り返して形成された支持部57'を介して連結されているM形突片62'は軟質合成樹脂筒体7'から離間している。

この状態から一方の支脚51'の中心部を上面側から下面側へ向けて押圧すると、第四図に示すように一方の支脚51'は下方に湾曲反転し、第七図に示すようにこの反転に伴って該一方の支脚51'の内側が基準線Xから見て下方に向かって傾斜し、この一方の支脚51'に一定角度でほぼU状に折り返して形成された支持部57'を介して連結されているM形突片62'は、第三図及び第四図のように前方からみて水平状態を保ちつつ下動し、他方の支脚52'に被嵌した軟質合成樹脂筒体7'の表面にそれぞれ圧着する。

前記ストッパー3'は、部材50'の四隅に設けられている鳩目55'56'55'56'に糸を通すことにより、かつら本体2'の内周面に縫着されており、一方の支脚51'の反転に伴って、第三図及び第四図のように前方から見てほぼ水平状態を保持しつつ、第七図に示すように下動するM形突片62'と軟質合成樹脂筒体7'との間で、脱毛部周辺の毛髪を挟圧保持する。

従って、M形突片62'と軟質合成樹脂筒体7'による毛髪の挟圧保持はその挟圧力が該軟質合成樹脂筒体7'のいずれの位置でもほぼ等しい。

またM形突片62'の先端部が下方に少し湾曲しているので、被告製品のかつらの頭部へのとりつけに際してM形突片62'の先端部により毛髪の取り込みが容易となって多めの毛髪が挟圧保持される。

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